公演レポート
2月27日(水)から3月3日(日)の5日間開催された『たのかんさあレンジャー』。その公演の様子を、劇場レポーターのPyonさんに執筆していただきました。劇場レポーターとは、公演の様子などをご覧いただけなかった方にも伝えられたらという思いで始まった取り組みです。公演を観てくださった方も、「見逃した!」という方も、ぜひお読みください♪
―・―・―・―・―
宮崎という土地に生きる人々の暮らしを通して日本の課題を見つめようと、2017年から始まった宮崎県立芸術劇場プロデュースの演劇作品シリーズ「新 かぼちゃといもがら物語」も今回で3作目。毎回、旬の劇作家が本県を実際に旅して着想し、オリジナル作品を執筆するという、演劇好きにとっては贅沢なシリーズで、今年もこの時季になるとわくわくが止まりません。
3作目の脚本は「まずいスープ」「のろい男 俳優・亀岡拓次」などの代表作で知られる人気作家で劇作家の戌井昭人さん。そして演出は、県立芸術劇場演劇ディレクターで、全国で活躍する演出家・立山ひろみさんが本シリーズを初めて手掛けます。
シリーズのもう一つの魅力は、何と言っても俳優陣ですね。全国から実力派の役者が揃います。しかも今回の主役は、最近ではNHKの連続テレビ小説「まんぷく」にも出演し、テレビや映画でその姿を見ない日はないというほど人気の名バイプレーヤー・矢柴俊博さん!矢柴さんがもたらす化学反応を楽しみに、初日から観劇しました!
さて今作は、宮崎県西部の架空の町で、米どころと温泉で知られる「かにの市」が舞台。霧島連山の麓に位置し、山の恵みでもあるきれいな水と豊かな温泉資源、そこから生まれる米や野菜など一次産業で成り立ってきた町。と書けば、きっと「〇〇〇市」だな!と思い当たる人もいるのではないでしょうか。舞台は架空の町とはいえ、県内のどこかの市町村をモチーフにしているので、それがどこかを想像しながら観劇するのがまたおもしろいんですよね。
物語の主人公は、東京の広告会社に勤務していた米農家の小林(矢柴)。かつては多くの温泉客が訪れた故郷の賑わいを取り戻そうと、同世代の養豚農家・黒岩(森川松洋)、旅館経営・高尾(キムユス)、チョウザメ養殖業者・赤石(片山敦郎)とともに、田畑の守り神として土地に伝わる「田の神(かん)さあ」をモチーフにした「たのかんさあレンジャー」を結成。ヒーローショーでの町おこしを試みるも、なかなかうまくいかない。なじみのクラブ「ブーブーキング」で店員のちほ(桑原裕子)、店長の海老名(実広健士)を相手に愚痴をこぼし、メンバーの関係性もギクシャクし始めている。
そこに、夫・重樹(宇井晴雄)のDVでボロボロになり、住んでいた日南市からスクーター1台で逃げてきた女・田畑しのぶ(はまもとゆうか)や、万引き老女・チイ子(大江泰子)が加わり、彼らの平凡な暮らしに変化が訪れる―。
物語はすべてクラブ「ブーブーキング」の中で展開(ヒーローショーのシーンだけ、農村の風景が掛かれた幕がかかる)しますが、役者さんたちの快活な動きや、戌井さんが得意とするテンポのよいセリフの応酬は観客を飽きさせません。ほかの登場人物にスポットが当たっているシーンでも、小林のもどかしさを動きをまじえてコミカルに繊細に見せる矢柴さんの演技はさすがの一言。さらに、客席に飛び込んで観客をいじりながら舞台と観客を一つにしていきます。終始小さな笑いがそこかしこで起きるのんびりとした空気が会場内にも充満して、何だか心地良い。
宮崎演劇界の重鎮でシリーズ皆勤賞の実広さんはとぼけた味わいで修羅場のシーンを和ませる。桑原さんの見事な跳び蹴り、キムユスさんの柔軟かつキレのあるダンスや森川さんの流暢(?)で朴訥な宮崎弁も秀逸!丹念な立山さんの演出で役者それぞれの個性が引き出されています。
シリーズのテーマは、都会、地方に限らず起こっている社会の課題を、人々の日々の営みの中に描くこと。それは例えば凶悪な犯人による強盗殺人だとか、大規模な贈収賄ではない。今作でいうならば、地域活性化や住民同士の絆づくりを懸命に叫ぶ人と、今一つ熱くなれず、何となく周囲に流されて動く人。物語には登場しないが、どこか冷めた目線で傍観する人もいるだろう、人と人の「共存」。それぞれのジレンマを物語ににじませながら、「それじゃあ、あなたはどう生きていくの?」と問いかけられたように思えました。
物語の最後のシーン。人生の挫折を消化しきれず、妻への暴力に向かっていた重樹が養豚農家に転身し、「たのかんさあレンジャー」にピンクのスーツと割烹着に身を包んで参加。実は大半の人がこんな思い切った(?)変身願望を持っているのかも…と希望のようなものを感じつつ、幸福感に包まれて観劇を終えました。
次はどんな地域の問題が、どんな風に料理されて私たちの前に登場するのか。来年も楽しみにしています♪
0コメント